特集コラム

Column 4 中野グルメ

2010/12/27

ぢどり屋 中野店

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「えっ?僕の夢ですか?」

まだ陽は沈んでない時間帯にも関わらず、ぢどり屋の店内はすでに鶏肉を焼く煙で充ちており、入口から見える店の奥の風景は少しばかり霞んでいた。
炭火に落ちた肉汁は「ジュゥ!」という一瞬の音と共に香ばしい匂いへと変化し、その芳香な香りこそが、大衆に愛される焼き鳥屋の空気を作り出しているのだと感じてしまう。

「夢は...そうですね。(生中追加でーす!)店舗のお店を(キャハハ)プンさせる事です。」

「はい?」

青柿店長との会話は、サラリーマンの愚痴やカップル同士の甘い話、さらにはスタッフのオーダーを復唱する大声等により、所々かき消されてしまう。
その結果、店内の誰しもが普段より声のトーンを上げて話さなければならない為、私の話す声も次第に居酒屋独特のテンションに巻き込まれていく。

「夢は、100店舗のお店をオープンさせる事です!私一人でじゃないですよ!自分が人を育てられるくらい成長して、人を育てるんです!育てた人が誰かをまた育ててくれて...結果的に100店のお店をオープンさせられたら良いと思ってます!」

そんな熱い夢を語る店長の上では、黒ぶちメガネをかけた若かりし頃の大村崑が「元気ハツラツ!」と言ってオロナミンCの茶色い瓶を握り締めながら私達を眺めている。

そのレトロで味のある看板が会話の内容とミスマッチで少し笑えてしまうはずなのだが、店長の語る夢におかしい事は一つも無い。

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どんな事にも通ずる事であろうが、夢を追う人の行動はいつも真剣。私の経験上、本気で接客をしているお店に入り、ガッカリさせられた事はこれまで一度も無い。
数多く居酒屋がある中野で、店選びに迷ったら"ぢどり屋"に来て下さいと自信もって発言する青柿店長の言う事に嘘は無いのだと思う。
言い方は悪いかもしれないが、飲食物を扱う限り「元気な接客」だけでは人は集まらないようにも思う。なぜなら、一度か二度行けば満足してしまうからだ。少なくとも私ならそう思う。

人が何度も通いたくなる飲食店には、その店でしか味わう事ができない何かがなければならない、そう思えて仕方が無い。
そんな事を考えながら店内を見渡すと、ほとんどのテーブルに「もも焼き、たたき」がオーダーされている。
どうして大半のテーブルでそれらが注文されているのか。 その理由は一つだけ...

美味しいからだ。

私の知る限り、こだわりを持って取り寄せた九州博多の国産親鶏を味わう事ができるのは"ぢどり屋"だけなのだ。ぢどり屋の焼き鳥は、今まで食べた焼き鳥と比べて「何かが違う!」と感じてしまう味なのである。
百聞は一見にしかずという訳では無いが「百聞は一噛にしかず」であるとも思うので、一度味わってもらった方が、九州博多の親鶏の美味しさに同感してもらえるはずだ。

日本の大衆文化でもある"YAKITORI"は、今日も日本中で歴史を刻んでいるようだ。
そんな日本文化と歴史の中で生きているのならば、焼き鳥屋だけでしか聴けない心地良い騒音を浴び、本物の"焼き鳥"を食べないのは結構な損だと思えてしまった。

ぢどり屋 中野店
http://www.fc-zidori.com/tenpo/nakano.html
住所:東京都中野区中野5-59-1
TEL:03-3388-7447
国産親鶏のもも焼き・たたき:630円から

文・取材 / 矢嶌船峰

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